おいしい野菜や米、果物等を食べた時、人間なら、また同じものを食べたい、と思うのは自然なことだと思います。私は、幼稚園の時に食べた柿があまりにおいしくて、種子を見たら丸々して色も濃く、これはすごい柿だ! と思って、近所のおばちゃんの庭に撒かせてもらったことを憶えています。(わが家に庭はありませんでした。)

種子を採って次世代につないでいく地域の作物、「固定種」や「在来種」は、まるでこの世の奇跡のように感じられます。

一方、今までにない作物を作りたい! という時には、人為的に交配という方法で育種されてきました。「交配選抜育種法」といい、この方法は、新しい品種ができるまでに稲で十年、果物では何十年という長い年月が必要だそうです。
そこで、もっと短期間で育種する方法、
放射線化学物質等を用いて突然変異を起こす方法や
遺伝子を操作(遺伝子組み換え・ゲノム編集)する方法が
開発されました。

放射線育種」は、放射線を照射して遺伝子を壊し育種する方法です。
歴史は意外に古く、日本では1950年代に実用化されました。すでに米・大豆・小麦・花等、広範囲に及ぶ約500種が生まれています。この放射線(ガンマ線)突然変異育種は、安全性評価や表示の考え方ができる前に始められたため、評価も表示も行われてきませんでした。(国は自然放射線による突然変異と同じとしています。)

余談ですが、私は、食物アレルギーのこどもたちが食べられないものが、米・大豆・小麦等、日本人が古くから食べてきたものにもあるのが不思議でなりませんでした。
農薬などの残留が関係していると思いましたが、オーガニックのものでも食べられないお子さんの話を聞くと、首を傾げざるを得なかったのです。そして、育種について反自然的なことが行われていたことを知り、興味深く感じました。(食物アレルギーについては、ひき続き情報収集していきたいと思います。)

ガンマ線による育種は廃止されましたが、国は代わりに、「重イオンビーム」を使って遺伝子を破壊する育種を始めました。ガンマ線よりも相当強力なエネルギーの放射線を照射するのですが、国はガンマ線による育種と同じとして、今まで通り無表示で流通させるとしています。

2025年度4月から、ある県でこの重イオンビーム米の作付けが始まりました。これは、圃場でカドミウム汚染された地域が一部あることを考慮し、栽培される稲が、カドミウムを吸収しないように育種されたものです。その県では、県内で流通しているある品種米を、「全て重イオンビーム米に切り替えていく」と表明しました。
消費者や生産者から驚きの声が上がりました。ある専門家は、安全性や、生産性に対する疑問や懸念が払拭されていないと指摘しています。
全国から、従来通りの品種米を食べたい、栽培したい、という声が寄せられました。が、県は重イオンビーム米の全量切り替えを断行し、販売時には、従来の品種名で流通させるとしています。

この品種米は、重イオンビームで遺伝子操作した「カドミウム低吸収性品種」を交配したものです。実は、国は全国で流通している主要な品種米のほとんどを、この原種を使った後代交配種に切り替えていく計画で、すでに200を超した数の品種をつくらせています。(2023年某氏による農水省情報公開請求による開示)

確かにカドミウム汚染は氣になります。しかし、重イオンビームではない、繰り返し交配での、カドミウムを吸収しない品種の開発を、岡山大学の研究グループが成功させています。ttps://www.okayama-u.ac.jp/tp/release/release_id995.html

カドミウム汚染は、全国でも限られている地域とのことです。
では、リスクが少なくないと指摘されている重イオンビームを照射し遺伝子を破壊した育種米「カドミウム低吸収性米」の後代交配種を、全国の米の品種へ切り替えていく必要があるのでしょうか。(国は風評被害防止のためといっています。)

さらに、国は、重イオンビーム米でも有機で栽培したものは有機認証するとしており、全国の有機農家や子育て中の親御さん等、多くの生産者、消費者が「受け入れ難い」と反対を表明しています。

全国の米の品種が全面的に重イオンビーム米に切り替わるとすれば、別の心配があります。
生産者が米の増殖をする際のことです。
原種のカドミウム低吸収性品種は、自家増殖禁止の登録品種(種苗法でいう育成者権のある品種)のため、その後代交配種も品種登録され次第、すべて育成者権のある品種になっていきます。

自家増殖禁止とは、農家が自分の栽培した作物から、育成者の許可なく種子を採り、栽培、販売することができないということです。

2018年3月までは、米の種子は種子法により公的機関に守られ、生産者は自家増殖もほとんどが自由にできました。法が廃止された後は、これまで通り自家増殖可能な品種の種もみを手に入れることができるのか、不安な声があがっていました。
全国で登録品種の種もみばかりになると、この恐れがますます現実化する可能性があります。

米は、私たちの主食であり、日本人の健康の源。国はこの施策の是非を、広く国民に問う必要があるのではないでしょうか。

参考 :
・「どうなっているの? 食品表示」原 英二 著 (2022.12.25 初版 日本消費者連盟 発行)
・OKシードプロジェクトホームページ OKシードプロジェクト | 食の知る権利を守ろう!